エピソード48/顔合わせ
絵美がアルバイトを終えて、俊之の家へと、やって来た。
勝手口のドアを開けて、家の中に入る。
絵美「ただいま〜」
俊之が居るはずなのだが、返事がない。
絵美は家にあがり、俊之の部屋へと向かう。
そして階段を上って、俊之の部屋のドアを開ける。
絵美「ただいま」
俊之「あ、おかえり」
絵美「勉強をしているの!?」
俊之「うん。もう、ちょっとで終わるから」
絵美「そう」
俊之「わざわざ上がって来なくても良かったのに」
絵美「だって、俊君に"おかえり"って、言って欲しかったんだもん」
俊之「そっか。ゴメン、ゴメン。帰って来たのは分かっていたんだけどさ」
絵美「もう〜」
俊之「とにかく、もうすぐ終るから、終ったら下へ行くよ」
絵美「うん。じゃあ、私は夕飯の支度をしているね」
俊之「サンキュ」
絵美は俊之の部屋のドアを閉めて、1階に下り台所へ行く。
そして夕飯の支度を始めた。
幾らもしない内に俊之も1階に下りて来る。
俊之はリビングに座るとTVをつけた。
そして台所で夕飯の支度をしている絵美に話しかける。
俊之「夕飯、何にしたの?」
絵美が俊之の方を振り返って答える。
絵美「チキンとナゲットを貰ってきたんだ」
俊之「そうなんだ。それで後は何を作っているの?」
絵美「寒いから温まるものがいいかなって、湯豆腐」
俊之「湯豆腐って、手抜きだべ!?」
絵美「何を言っているのよ。そんな事を言うなら、食べなくてもいいよ」
俊之「ゴメン、ゴメン。食べさせて下さい」
絵美「あはは。それと、ふろふき大根を作るんだ」
俊之「何、それ?」
絵美「え!?知らないの?」
俊之「うん。ウチのメニューには、そんなのはなかったと思う」
絵美「そうなんだ。すごく美味しいよ」
俊之「へぇ〜。だったら、お袋にも食べさせてみたいな」
絵美「大根は1本しかないから、そんなに沢山は作れないけど」
俊之「そうなんだ」
絵美「俊君の分を減らせば、お母さんの分に回せるよ」
俊之「沖縄の伯母さんの分は?」
絵美「それも俊君の分を減らせば大丈夫だけど」
俊之「じゃあ、そうして」
絵美「いいの?」
俊之「うん。俺の分はあるんでしょ!?」
絵美「うん。私と俊君とで1個ずつになっちゃうけど」
俊之「それで、いいよ」
絵美「分かった」
そして絵美は再び、夕飯の支度を続けていく。
俊之はTVでニュースを見ている。
暫くすると、夕飯の支度も整う。
絵美「俊君、出来たよ」
絵美が台所から俊之に声をかける。
俊之はTVを消して台所へ行く。
俊之「へぇ〜。これが、ふろふき大根なんだ」
俊之はそう言いながら、台所の椅子に座った。
絵美「本当に知らないんだ」
絵美もそう言いながら、台所の椅子に座る。
俊之「うん。見た事もない」
絵美「そうなんだ」
俊之「美味しそうだね」
絵美「美味しいと思うよ。だから、私は大好きなんだ」
俊之「そっか。そんじゃ、早く食べよ」
絵美「うん」
俊之「いただきま〜す」
絵美「いただきま〜す」
二人は声を揃えて言った。
そして食べ始める。
俊之「すげー、美味しい」
絵美「でしょ〜」
俊之「こんなに美味いもんを知らなかったなんて、俺って不幸だったんだな」
絵美「あはは。何を言っているのよ〜」
俊之「ってか、お袋達の分も食べたくなってきちゃったよ」
絵美「だから、さっき、ちゃんと確認をしたじゃん」
俊之「だって、こんなに美味いって知らなかったからさ」
絵美「どうする?食べちゃう!?」
俊之「また作ってくれる?」
絵美「いいよ」
俊之「だったら、今日は我慢をしよ」
絵美「そっか」
俊之「だって、こんなに美味いもん、お袋や伯母さんにも食べて貰いたいし」
絵美「初対面で、いきなり料理を食べて貰うのって、ちょっと恥かしいかな」
俊之「大丈夫だって。すごく美味しいもん」
絵美「ありがとう」
そして二人は夕飯を食べる。
食べ終わると、絵美は食器を洗い始める。
俊之はリビングに戻って、再びTVを見始めた。
絵美も洗いものを終えると、リビングに来て俊之と一緒にTVを見る。
絵美「俊君と、こうしてTVを見るのって、初めてだね」
俊之「そう言えば、そうだね。俺、余りTVは見ないしな」
絵美「私も俊君と付き合う様になってからは、余りTVは見なくなったかな」
俊之「そうなんだ。前は結構、見ていたの?」
絵美「うん。お父さんやお母さんと一緒に見ていた」
俊之「隆行は?」
絵美「隆行はいつも、すぐ自分の部屋に行っちゃうから」
俊之「そうなんだ」
絵美「男の子ってTVは余り見ないのかな!?」
俊之「そうだね〜。家族と一緒には見ないかもしれないな」
絵美「そうなんだ」
俊之「自分の部屋にTVがあれば見るかも」
絵美「俊君も?」
俊之「うん。見る機会は増えると思うよ」
絵美「そっか」
俊之「でも、今はTVを見るより勉強をしなきゃならないから、TVはいらないかな」
絵美「そうだね。あると、ついつい見ちゃうかもしれないもんね」
俊之「そうそう。って、お袋達、遅いな」
絵美「何時頃になるんだろうね!?」
俊之「分かんない」
そして二人はTVを見ながら、おしゃべりを続ける。
夜の9時を過ぎた頃、勝手口のドアが開く。
俊之の母「ただいま」
俊之の母が帰って来た。
俊之「おかえり」
絵美「おかえりなさ〜い」
俊之と絵美はリビングから返事をした。
俊之の母「俊之、玄関を開けて」
俊之「分かった」
俊之が立ち上がって、玄関の方へ向かった。
絵美も立ち上がって、台所へ行く。
俊之の母「絵美ちゃん、どうもありがとうね」
そう言いながら、俊之の母は台所の椅子に座った。
絵美「いえ。私も俊君と二人きりになれて楽しかったですし」
俊之の母「あら、まあ。私は邪魔者なのかしら」
絵美「そういう訳じゃないですけど」
絵美はそう言いながら、ふろふき大根の入った鍋に火をつけた。
俊之の母「ふふふ。絵美ちゃん、何をしているの?」
絵美「私、ふろふき大根を作ったら、俊君がお母さん達にも食べて貰おうって」
俊之の母「絵美ちゃん、ふろふき大根が作れるんだ。って、お湯を沸かさなくちゃ」
絵美「私がやります」
俊之の母「ありがとう」
絵美が薬缶に水を入れて、鍋の隣のコンロで湯を沸かす。
そして俊之が一人でリビングに戻って来た。
俊之の母「房江姉さん達は、どうしたの?」
俊之「伯母さん達、今、親父へ線香をあげるのに和室へ行っている」
俊之の母「そう」
そして暫くしてから、伯父さんが1人と伯母さんが2人、リビングに入って来る。
俊之「絵美」
俊之が台所に居る絵美を呼ぶ。
絵美「ちょっと待っていて」
俊之の母「いいわ。後は私がやるから。絵美ちゃんはリビングへ行きなさい」
俊之の母が立ち上がって、絵美に声をかける。
絵美「すみません」
絵美が鍋と薬缶を俊之の母に任せて、リビングへと行く。
そして俊之が絵美に叔母さん達を1人1人、紹介をする。
俊之「こちらが沖縄の房江伯母さん」
房江「あなたが絵美ちゃん!?とても可愛らしい子ね。宜しくね」
絵美「初めまして。宜しくお願いします」
絵美が深々とお辞儀をした。
俊之「それで、こちらが俺がお世話になっている、大工の高広伯父さん」
高広「本当に可愛い子だな〜」
俊之「それと高広伯父さんのお嫁さんの啓子伯母さん」
啓子「絵美ちゃん、宜しくね」
絵美「初めまして。宜しくお願いします」
絵美が再び、深々とお辞儀をした。
高広「こちらこそ、宜しく」
そして絵美が俊之の左隣に座る。
高広は俊之達の右の側に座った。
俊之達の対面には啓子が座る。
俊之達の左の側に房江が座った。
房江「俊子さんの座る場所がなくなっちゃうわね」
丁度、俊之の母が、ふろふき大根とお茶を持って、リビングに来た。
俊之の母「私は台所でいいわ。それより、これ。絵美ちゃんが作ってくれたんだって」
俊之の母が高広、啓子、房江の前にそれぞれ、ふろふき大根を盛った皿とお茶を置いて台所に戻る。
高広「お〜。ふろふき大根じゃないか」
俊之「すみません。高広伯父さん達まで来ると思っていなかったから」
高広「俺が来なかったら、房姉をどうやって此処へ連れて来るんだよ」
俊之「そうだよね。そこまで考えが回らなかったよ」
房江「だから、半分なのね」
啓子「私達、お邪魔だったのかしら!?」
房江「いいのよ。私達は半分くらいで、丁度いいわよね」
房江が台所に居る俊之の母に相槌を求める。
俊之の母「そうですよ。お気になさらないで下さいな」
房江「それじゃ、せっかくだから、頂きましょうよ」
そして大人達4人がリビングと台所で、絵美の作った、ふろふき大根を食べ始める。
高広「これは驚いた」
房江「本当に美味しいわ。絵美ちゃんって、お料理が上手なのね」
絵美「いえ。私なんて、まだまだです」
啓子「謙遜なんて、しなくていいじゃない。本当に美味しいんだから」
俊之の母「そうよ。今度は私の方が絵美ちゃんに料理を教えて貰わなきゃならないわ」
絵美「そんな〜」
絵美が照れる。
高広「半分だけじゃ、物足りないな〜」
俊之「すみません。でも、俺だって、もっと食べたかったのに、我慢をして、とっておいたんだから」
房江「そうだったのね。俊之もどうもありがとう」
俊之「俺、ふろふき大根って知らなくて、お袋にどうしても食べさせてみたくて」
俊之の母「私は作った事がないからね」
俊之「食べた事はあるの?」
俊之の母「何度かはあるけどね。ただ、料理って家庭環境に左右されちゃうのよね」
房江「そうよね。私も、ふろふき大根は作らないわ」
啓子「ウチも今度、ふろふき大根を作ってみようかしら」
高広「おお。それはいい。是非、頼むよ」
俊之の母「私も今度、絵美ちゃんに教わって、作ってみようかしら」
房江「絵美ちゃんの家はふろふき大根をよく作るの?」
絵美「はい。ウチのお母さんは和食が得意なので、お母さんに教わったんです」
房江「いいお母さんみたいだね」
絵美「はい。でも、ウチのお母さんは和食以外は苦手なので、和食以外の料理は今、俊君のお母さんから教わっているんです」
房江「俊之。いい娘さんじゃない」
俊之「でしょ」
高広「よく見つけてきたな〜」
俊之「一応、幼馴染なんです」
啓子「そうなんだ。いいわね〜」
高広「ウチも、そろそろ正広には彼女を連れて来て欲しいもんだけどな」
俊之「正兄、彼女はいるんでしょ!?」
啓子「いる事はいるみたいだけどね」
高広「まだ俺達に紹介が出来る様な関係じゃないみたいでさ」
房江「幸広の彼女はどうなったの?」
啓子「幸広は今、彼女はいないみたいだけど」
房江「一昨年だったか、幸広も彼女を連れて、ウチに来たんだけどね」
啓子「ああ。その彼女とは上手くいかなかったみたいなのよ」
俊之「そうなんだ。俺、幸兄から、房江伯母さんのところへ行ったって話を聞いて、俺も、いつか彼女を連れて行こうと思っていたんだけどね」
房江「ウチに来るのはゲンが悪いのかしら!?」
俊之「俺達は大丈夫だよな」
絵美「うん」
房江「あら、頼もしいわ。ウチに来た子供達は今のところ、幸広で1勝2敗になっちゃったみたいだから、俊之と絵美ちゃんにタイにして貰わなきゃね」
俊之「その1勝って誰なの?」
房江「琢也は知っているでしょ!?」
俊之「紀子伯母さんのところのでしょ」
房江「そうそう」
俊之「琢也兄さんも彼女を連れて行っていたんだ」
高広「そう言えば琢也、最近、こっちに来なくなったよな」
啓子「当たり前でしょ。 新潟だし、自立をして自分の家庭を持てば、そうそう来れるもんじゃないわよ」
俊之「俺も琢也兄さんとは、もう5年以上、会っていないんじゃないかな」
房江「琢也はもう、こっちに来る事はないかもしれないわね」
俊之「それより房江伯母さんも、暫く珊瑚をこっちに連れて来ていないじゃん」
房江「そう言われると、そうね」
俊之「房江伯母さんの娘で珊瑚って、俺達と同い年の女の子がいるんだ」
絵美「そうなんだ」
房江「珊瑚も年頃になったせいか、私と一緒に、こっちへ来たがらなくなっちゃってね」
俊之「そっか。俺、珊瑚に会いたかったんだけどな」
房江「ごめんね。珊瑚も友達と遊ぶ方がいいみたいだし、ウチの旦那の方の親戚付き合いもあるからね」
俊之「でも、房江伯母さん、よく毎年こっちに来られるね」
房江「ウチの旦那の方も親戚同士、絆が強いから、私は旦那と娘を親戚の人達に任せて、こっちに来させて貰えるのよ」
俊之「そうなんだ」
房江「正直に言うと、私はあっちの正月が馴染めなかったりもするしね」
高広「あはは。房姉らしいな」
啓子「沖縄の人達って、すごくお酒を飲むんでしょ!?」
房江「そうなのよ。正月なんて一日中、飲んでいたりするのよ」
高広「ちょっと羨ましいかな」
房江「何を言っているの。正月中、酔っぱらいの相手をさせられたら、たまったもんじゃないわ」
啓子「そうですよね。それに、あなたじゃ、沖縄の人達のお酒にはついていけないでしょ」
高広「そうなんだよな。ウチの家系は、そんなにお酒は強くないしな」
房江「それじゃ、余り遅くなると、祐兄に怒られそうだから、そろそろ帰りましょ」
高広「そうだな」
房江「絵美ちゃん、どうもご馳走様でした」
啓子「本当にすごく美味しかったわ」
絵美「いえ。そう言って貰えて、とても嬉しいです」
房江達が立ち上がる。
続いて俊之の母と俊之達も立ち上がった。
房江「それじゃ、俊子さん、お邪魔しました」
俊之の母「いえ、何のお構いも出来なくて。また来年にでも、いらして下さいな」
房江「そうさせて貰うわね。俊之」
そう言いながら、房江が俊之達の方へ向き直る。
俊之「何?」
房江「夏休みを楽しみに待っているわね」
俊之「うん」
房江「絵美ちゃんも夏休みに、また会えるのを楽しみにしているわ」
絵美「はい。私もすごく楽しみです」
そして房江達はリビングを出て行った。
俊之の母が玄関まで見送りに行く。
俊之の家を出た高広達が車で房江を俊之の父の実家まで送りに行った。
そして房江達を見送ると、俊之の母もリビングに戻って来る。
俊之の母「あ〜、本当に疲れたわ」
そう言いながら、俊之の母はリビングに座った。
俊之「それで、どうだったの?」
俊之の母「どうもこうもないわよ。祐一兄さん、向こうに着くなり知明兄さんに説教を始めちゃってさ」
俊之「やっぱり、そういう事になったんだ」
俊之の母「でも、祐一兄さんも一通り説教をしたら、気が済んだみたいで、その後は久しぶりに皆が集まったからって、話も盛り上がっていたけどね」
俊之「みんな夫婦で来ていたの?」
俊之の母「男兄弟のところだけ、お嫁さんも来ていたわ」
俊之「そうなんだ」
俊之の母「だから、私も色々と話せたから、それなりに楽しかったけど」
俊之「じゃあ、良かったじゃん」
俊之の母「とにかく、行きと帰りが大変だったわ」
俊之「そっか。そんじゃ、俺、ちょっと絵美を送ってくるね」
俊之の母「あ、ちょっと待って、絵美ちゃん」
そう言って、俊之の母は立ち上がって台所へ行った。
絵美「何でしょうか?」
俊之の母が何かを持ってリビングに戻って来る。
俊之の母「お土産」
そう言いながら、俊之の母はお土産を絵美に渡そうとする。
絵美「いえ。お土産なんて、」
俊之の母「いいのよ。せっかく買ってきたんだから貰ってよ」
絵美の言葉を遮って俊之の母が言った。
絵美「それじゃ、ありがとうございます」
絵美がお土産を受け取る。
俊之「お土産って何?」
俊之の母「南部せんべいって、おせんべい」
俊之「そうなんだ。俺の分もあるの?」
絵美「あはは。俊君って食い意地が張っているよね」
俊之「笑うなよ。食べた事がないもんって、食べてみたいじゃん」
俊之の母「だから、買ってきてあるって」
俊之「そっか。じゃあ、絵美を送ってくる」
絵美「お邪魔しました」
俊之の母「いってらっしゃい」
そして俊之と絵美は自転車で絵美の家へと向かう。
二人の吐く息が寒さを物語っている。
途中、ちらほらと雪が舞い降りてきた。
このまま雪が降り続ければ、辺りは薄っすらと雪化粧をするのかもしれない。
そんな中を二人は絵美の家へと急いでいた。
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